「こんな小さなことで人は幸せになれる」京都のお引越し

 

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  • 美大出身、大阪で働く俊也(正門良規)。
    ある日、従姉の佐紀(蓮佛美沙子)を訪ねて京都にやって来る。
    京都でアンティークショップを営み、自由気ままに生きているように見える佐紀にちょっぴり羨ましさを感じる俊也。
    個人が営むノスタルジックで洗練された小さなお店や普段使いの生活に根付いたお店を回り、京都の自然に癒され、佐紀や友人の奈緒安藤玉恵)と触れ合う中で、自分も京都に住んでみたい気持ちがふつふつと湧いてくる・・・

 

公式HPに記載されたあらすじ、これが全ての物語。大きな事件は起きるわけではない。でも、よりよく生きることの意味をじっくりと時間をかけて感じさせてくれるドラマだった。

 

ドキュメンタリー×ドラマで描かれる京都

「京都のお引越し」は俊也の物語だけど、俊也の目を通した京都という町を主役として丁寧に映し出している。ドキュメンタリー×ドラマというそうで、実在の店、京都の人々、そしてその町の中で俊也と佐紀と奈緒が存在する構造になっていて、観光地ではなく人が暮らす町としての京都を歩いてみたくなる。冒頭の松風を買いにいく場面は完全にてくてく絶景。台詞が「ん?」と聞き返される場面だって何度かある。台詞なのか、思わず出た言葉なのかわからない言葉運びで、町を歩いている時に自然と耳に入ってくる会話みたいだ。

歴史ある商店の佇まい、適度な距離感の人々、穏やかな川の流れや風に揺れる木の葉の音。京都という町には誰かがずっと大切にしてきたものがただ凛と存在している。そして、俊也はちゃんとその良さをちゃんと感じ取れる人だ。だからこそ佐紀や奈緒は京都のお気に入りを俊也に案内してくれるし、俊也は自分なりのお気に入りを見つけながらゆっくり京都に招かれていく。

あたたかな他人としてのキャラクターの魅力

京都の町や、京都で(実際に)暮らしを営む人々のあたたかさをくっきりと縁取るように、キャラクターとして取り込まれた俊也、佐紀、奈緒の3人もそれぞれに魅力的な空気を纏っている。

蓮佛美沙子さんが登場した途端に、佐紀が「社会での色々を経てここに辿り着いた人」であることがわかる佇まいがよかった。好きなものをじっくり選べる人の眩しさ。俊也が兄弟のように思いながら慕う気持ちがよくわかる。なんて居心地の良い人なんだろう。

安藤玉恵さんはごくごく自然すぎて、本当に奈緒という人が今日も野菜串を食べながら呑んでいる気すらしてしまう。そして立ち居振る舞いの可愛げがすごい。夕食のシーン、松風を勧められた時の「えっ食べる、」「なんで今ちょっとキャラ変わったの」のやり取りが好き。俊也と奈緒が陶器の棚を挟んで会話する場面もめちゃくちゃ好きです。ものを隔てて物理的な距離を置きながら本質的な会話をするっていう場面がかなり癖なんだけど、他人としての適切な距離感で、でも相手に向かってまっすぐ投げかける言葉がとても良かった。

正門くんはグレショーをみたりインタビューを読んだりする限りではかなり役を作り込む人だと思うんだけど、俊也が京都の町に馴染んでいく中で、俊也という人が正門くんに解けて馴染んでいく感じがした。ナレーションの声が耳心地良い。

自分の好きなものを選ぶ、ということ

俊也が100万個のボタンの中からじっくり選んだボタンを空にかざして眺めるとき、「こんな小さなことで人は幸せになれる」と佐紀の声でナレーションが入る。あれもいいこれもいいと目移りしながら、自分自身の手で選び取ることの喜び。

俊也からみた佐紀や奈緒の存在は眩しい。彼女たちは、ちゃんと自分の好きなものを知っていたり、好きなものを選んだりすることができる。人と比べたり他人の軸で測ったりしていない。でもそれってすごく難しいことだ。つい忙しくて時間がないからと言い訳して可もなく不可もないものを手に取ってしまいたくなる。自分の本当に好きなものをじっくりと時間をかけて探すこと、そして自分の手で選ぶことこそが、幸せに生きるということであるように思う。

俊也は佐紀と河原を歩きながら「ひさびさに色を感じた」と話し出す。美大で知った世界の広さ。でも、だからと言って俊也が幼い頃から自分だけの色彩の捉え方は否定されるものではない。俊也には俊也の世界の捉え方があって、好きなものがあって、そしてそれを選びとることができる。それを繰り返すことが、幸せであるということなのだ。

「僕は、一つ一つ納得するまで考えてるやろか。」

そう自問自答した俊也が、何か大きな事件が起きるわけでもなく、誰かに急かされるわけでもなく、自分なりのお気に入りを見つけて自分自身で京都へのお引越しを決断する。そういう小さいけれど確かな人生の分岐点を見つめさせてくれるドラマだった。

 

 

年末から引き続いて世の中が音を立てて変わっていくことに疲れ気味な2024年初め、自分の人生の手綱を自分で握っていく覚悟を持とうと思えるめちゃくちゃいいドラマだと思って書き始めたのに、TVer配信が残り1時間!!45分程度で時間的にもみやすいので是非色々な人にみてほしいよ〜〜〜〜〜〜。そして絶対円盤化してほしい。よろしくお願いします。

 

 

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